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テクノロジーの地政学:小売(中国編):無人店舗、現金お断り…小売先進国・中国の内情

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「Software is Eating the World」。
この言葉が示すように、近年はソフトウェアの進化が製造業や金融業などさまざまな産業に影響を及ぼしています。そこで、具体的に既存産業をどのように侵食しつつあるのか、最新トレンドとその背景を専門外の方々にも分かりやすく解説する目的で始めたのが、オンライン講座「テクノロジーの地政学」です。
この連載では、全12回の講座内容をダイジェストでご紹介していきます。
講座を運営するのは、米シリコンバレーで約20年間働いている起業家で、現在はコンサルティングや投資業を行っている吉川欣也と、Webコンテンツプラットフォームnoteの連載「決算が読めるようになるノート」で日米のテクノロジー企業の最新ビジネスモデルを解説しているシバタナオキです。我々2名が、特定の技術分野に精通する有識者をゲストとしてお招きし、シリコンバレーと中国の最新事情を交互に伺っていく形式で講座を行っています。
今回ご紹介するのは、最終回となる12回目の講座「小売:中国」編。ゲストは、上海を中心に中国のデジタルスポット情報を発信するブログ『たきさんのちゃいなブログ』で知られる滝沢頼子氏です。

【ゲストプロフィール】

滝沢頼子氏
大学卒業後、株式会社ビービットに入社。Webサービスなどのユーザビリティコンサルタントとしてデジタルマーケティングを中心としたコンサルティングに従事した後、同社の上海オフィス立ち上げのため半年間中国に駐在。2017年には上海にあるデジタルマーケティング会社に転職。その頃から中国の最先端デジタルスポットを巡るようになり、ブログ『たきさんのちゃいなブログ』で情報発信を始める。2018年、日本に帰国し、株式会社Lincというスタートアップで来日外国人材を留学からキャリアまで一気通貫でサポートする事業を推進している。


デジタルマーケットで世界一、次の一手は?

中国の小売マーケット動向を把握する上で、人口の多さを見逃すわけにはいかないでしょう。世界銀行の調べでは国内人口が約13億8000万人(2016年時点)となっており、小売・消費財のプレーヤーにとっては超が付くほど巨大なマーケットです。実際、ECをはじめとした「デジタルマーケット」の売上規模は、すでに中国が世界一になっているようです。

シバタ:まずは、マーケット調査メディアの独『Statista』が調査したBtoC向けデジタルマーケットの売上予測を見てみましょう。

ここでいうデジタルマーケットとは「EC」「トラベル」「メディア」を足した市場で、2018年、主要先進国では中国が約$765 Billion(約76兆5000億円)で世界一の売上となる見込みです。それまで首位だったアメリカを2017年時点で抜いており、2019年には約$900 Billion(約90兆円)規模まで伸びると予想されています。

(米Statista「China Will Be the World's Largest Digital Market by 2018」(2017年4月27日)より抜粋)


中国の勢いを推し量る別のデータとして、同国のモバイルインターネット研究組織であるiiMedia Researchの「Market Share of Cross-border E-commerce Platforms」という調査を見ると、BtoCの「越境EC」でも中国企業が強いという結果が出ています。

越境ECとはいわゆるクロスボーダーECのことで、海外の商品を売り買いするプラットフォームを指します。このジャンルの2017年・第4四半期売上高シェアを見ると、1位はAlibaba GroupのTmall(ティーモール/天猫)で27.6%、2位はNetEaseという中国企業が運営するKaola(コアラ/网易考拉)で20.5%、3位はJD(ジンドン/京東商城)で13.8%となっています。

吉川:同調査によると、世界的に伸びているAmazonですらシェアが9.1%なので、思っている以上に中国の越境ECが強いということですね。

シバタ:続いて、日本でもメルカリの躍進で改めて注目されるようになったCtoCマーケットプレイスの動向を見てみましょう。

国内外のEC業者を調査・コンサルティングしているエンパワーショップのブログメディア『eコマースコンバージョンラボ』が2018年6月に発表した「2017年EC流通総額ランキング」によると、世界のCtoCマーケットプレイスの流通総額ランキングで断トツ1位なのが、推測で約43兆円のTaobao(タオバオ/淘宝)でした。


吉川:TaobaoもAlibaba Groupですね。2位の米eBayが約9兆円、日本で最も高い流通総額だったヤフオク!が9,346億円なので、比較するとAlibaba Groupがいかにすごいかお分かりになると思います。

シバタ:ここまでオンラインのトレンドを紹介してきましたが、中国では無人コンビニをはじめとしたリアルの実店舗もだいぶ進化しているようです。

調査会社の米CB Insightsの調べでは、中国における無人店舗関連スタートアップへの投資総額は2017年に$140 Million(約140億円)超となり、過去最高を記録。

前年の2016年は$5 Million(約5億円)あるかないかくらいの投資額だったので、1年でいきなり100億円以上も投資が増えたことになります。

CB Insightsはこの背景に、Amazonが2018年1月にオープンした無人コンビニ「Amazon Go」(アマゾン・ゴー)の存在があると分析しています。Amazonが無人コンビニ構想を発表したのが2015年。同社内に実験用の店舗ができたのが2016年12月ですから、Amazonに追い付き追い越せと一気に投資が進んだということです。

そして、この無人店舗を支えるコアテクノロジーとなっているQRコード決済は、中国の各都市で普及が進んでいるようです。

滝沢:私が中国で生活していた2017年〜2018年初頭だと、少なくとも上海ではほとんど現金を使わずに生活できるようになっていました。おばあちゃんが1人でやっているような個人商店にもQRコードが貼ってあって、以前行ったお寺ではお線香を買うのですらQRコード決済でした(笑)。

(お寺のお線香をQRコード決済で購入する模様:撮影滝沢氏)

最近は「現金お断り」と書いてあるお店まで出てきて、スマートフォンがあればもうお財布はいらないという状態です。スマホの電源が切れたり、盗まれたりしたら困るので、一応100元(約1,600円)だけ持って外出する、みたいな。

吉川:シリコンバレーもキャッシュレス社会なので、僕らも日ごろ、現金は$20(約2,000円)くらいしか持ち歩かないですよね。ただ、QRコードを使うことはほとんどない。そこが大きな違いです。


クルマも自販機で売る時代の販路拡大戦略

中国の大企業の動向を紹介する際、何度も名前が出てくるのがIT御三家と呼ばれるBAT(検索サービス大手のBaidu、EC大手のAlibaba、SNS大手のTencentの3社の頭文字を取った造語)です。小売の世界でも、投資や提携、買収などで影響力を増しているのですが、特にAlibabaとTencentの2社が積極的に動いているようです。

また、小売プレーヤー以外の大企業も「ニューリテール」と呼ばれる新しい小売の流れに乗って販売戦略を刷新しようとしています。その詳細を見ていきましょう。

シバタ:英ロイターの記事「Alibaba, Tencent rally troops amid $10 billion retail battle」(2018年2月19日)によると、AlibabaとTencentは積極的に小売プレーヤーに投資をしていて、案件の多くが1,000億円レベルに上っているそうです。

例えばAlibabaは、中国の大手家電量販店Suning(スーニン/蘇寧電器)に$4.6 Billion(約4,600億円)も出資して、戦略的提携を結んでいます。相変わらずスケールが大きいですね。

滝沢:近年のAlibabaは、オフラインで販路を広げることにすごく注力しているんですね。ECがこれだけ普及したとはいえ、中国ではまだ消費全体の中でEC経由の売上が15~20%くらいなんです。そこで、オフラインの小売プレーヤーに出資をして、リアルの「面」を獲ろうとしている。

吉川:2017年12月には、Tmallが上海で自動車を販売する自販機もオープンしましたよね。巨大な立体駐車場のような自販機の前でインターネットから試乗予約を行い、顔認証で鍵を受け取るという仕組みです。試乗中に車が気に入ったら、そのままスマホで決済して購入できるんです。

(Tmallの「自動車自販機」の様子はこちらの動画でチェックできる)


ちなみに、購入時は第8回の講座「FinTech・仮想通貨:中国編」で紹介したZhima Credit(ジーマ・クレジット/芝麻信用)によってセサミ・クレジットの「信用スコア」がチェックされ、ローンの支払い条件設定などが行われるんですね。極端な話、信用スコアが低いとクルマを買えないし、逆にスコアが高ければさまざまな面で優遇されます。

シバタ:クルマは買うと決めてから納車されるまでかなり時間がかかりますし、いろいろな書類を準備するのも手間ですよね? それが自販機で手軽に買えるなら、すごく便利です。

吉川:それだけではなく、Alibabaはこの自販機の販売データから「どんな層のユーザーがどの車種を買っているか?」といった情報も得られるので、自動車メーカーとの交渉にも使える。中国では最近、規制が変わって1ディーラーが複数メーカーの自動車を販売できるようになったので、こうしたデータがとても大事になります。

シバタ:この自販機は新しい購買体験を作り出している好例ですが、他の小売プレーヤーもAlibabaのようにテクノロジーを使って購買体験を改善しているようですね。

吉川:はい。JDも、2018年1月から北京で生鮮スーパーの7 FRESH(セブンフレッシュ)1号店を開業しています。雰囲気は米の高級スーパーWhole Foods Market(ホールフーズマーケット)を意識した印象で、日本でいうとちょっと大きくした成城石井や紀伊國屋みたいな感じでしょうか。これから3〜5年で全国1,000以上の店舗を開設していく計画だそうです。

JDの狙いはスマートテクノロジーをオフラインの買い物と融合することで、例えば買い物客がスマートフォンの画面を商品にかざすと、食品の栄養素に関する情報を確認できるような機能を提供しています。他にも、買い物客の後をロボットが付いてくるコンシェルジュ的なサービスもあるらしいです。ただし、私が見学に行った時は、店員さんが「今ロボットは動いていません」と言っていました。

滝沢:中国の会社は、プレスリリースを出しても実際には動いていないというケースが多いですよね。

吉川:そうですね。とはいえ、顔認証で商品決済ができたり、購入した商品を30分以内に宅配するサービスも提供していたりと、挑戦的な取り組みを行っています。

他にも印象的なオフライン展開を挙げると、スマートフォンメーカーとして世界的に知られるようになったXiaomi(シャオミ/小米)が自社の家電製品を展示販売する「小米旗艦店」をオープンしています。

1号店は2017年11月、深センに出店しており、見た目はほとんどAppleストアと同じ。実際にAppleストアなども手掛けたサンフランシスコのクリエイティブ会社、米eight(エイト)が店舗をデザインしたそうです。

シバタ:店舗そのもののデザインにも投資をしているのですね。

吉川:ええ。なぜ家電メーカーの話題を小売の講座で取り上げたのかという理由にもつながるのですが、Xiaomiは今まで築いてきた「Xiaomiエコシステム」の販路として、実店舗展開を非常に重視しています。

Xiaomiは過去5年で100以上のスタートアップに投資をしており、家電製品のみならずサングラスやペンなど多種多様な製品を自社のエコシステムに取り込んでいます。そのラインアップは、アメリカや日本でも類似するメーカーがないほど豊富です。

今後はその商品ラインアップをどう売っていくか? という点も大事になるので、実店舗でライフスタイルを提案しながら売っていく戦略を取ろうとしています。先ほど紹介した小米旗艦店も、フロアの2Fはライフスタイルをテーマにした展示を行っており、実店舗も中国で1,000店舗、グローバルで2,000店舗に増やしていくと発表しているんです。

シバタ:規模がすごいですね。

吉川:北京にあるモールの中にも、小米旗艦店より小規模な「smartmi」(スマートミー)というsmartmi社(Xiaomiエコシステムの1つ)の直営店を出していて、Xiaomiグループのスマートなブランドイメージを広めるための店舗デザインになっていました。こういう情報は、日本でほとんど報道されていないと思うので、ぜひ日本の家電メーカーの方々に知ってほしいです。

(Xiaomiグループの直営店「smartmi」の様子:撮影吉川氏)


Googleも再参入。トレンドを汲んで攻める外資企業

続いて紹介するのは、巨大なマーケットである中国に進出する外資企業の動きについてです。これまで、日本の小売企業は中国進出で幾多の試練を経験してきましたが、現地のマーケットニーズを汲んだ戦略で着々と地固めをする外資企業も増えているようです。

滝沢:近年の中国では「無人店舗」がめちゃくちゃ増えているんですね。例えばフランスのAuchan(オーシャン/欧尚)という会社は、AlipayやWeChat Payを採用することで商品の決済をすべてスマートフォンで行う無人コンビニを展開しています。

お客さんはコンテナのようなお店の入り口でQRコードをかざして入店し、商品をスマートフォンでスキャンしてオンラインカートに入れて、退店時にオンラインで会計するんです。ただ、Auchanの店舗には店員が1人もいないので、スマートフォンの電源が切れてしまったら外に出れなくなってしまいます(笑)。

(Auchanの無人コンビニ:撮影滝沢氏)

シバタ:実際に出れなくなった人もいるんですか?

滝沢:はい、そういう話を聞いたことがあります。一応、緊急電話みたいなものがあるので、そこに電話して出してもらうようです。

吉川:新しい購買体験を提供しているという点では、欧州でスポーツ用品販売最大手のフランス企業INTERSPORT(インタースポーツ)が、AlibabaのTmallとの共同事業でオープンした「夢幻の店」も面白いですよ。

2018年5月に北京でオープンしたこのお店は、天井のいたるところにカメラやセンサーが設置してあって、人の動きから商品の売れ筋まですべてをチェックしています。そうやって蓄積したデータがあるので、例えばお客さんがスポーツウェアをフィッティングするために鏡の前に立つと、「そのウエアを買った人にはこのランニングシューズがオススメです」というようなレコメンドが表示されたり、その場で鏡をタッチしながら他の商品を購入することもできるんです。

もちろん、Tmallと連動しているので、決済はオンラインでできるし、購入した商品をホテルや家まで届けてくれるサービスもあります。

このように、今後は中国に進出する(またはすでに展開している)外資企業が、AlibabaやJDと提携しながら「ニューリテール」を形にしていく流れが本格化していくかもしれません。先ほど話した自動車の自販機のように、購買データを収集できるのはAlibabaやJD、Tencentにとってもおいしい話なので。

シバタ:そういえば、2018年6月には米GoogleもJDに$550 Million(約550億円)の投資を実施して、東南アジア市場の拡大を狙うと発表しました。JDの企業規模を考えると550億円くらいの投資は微々たる額でしょうが、Googleはこれまで中国政府とやり合って参入を拒まれていましたから、エポックメイキングなニュースだと思います。

吉川:一方のJDはこの連携をきっかけに、Google経由でアメリカやヨーロッパへの越境ECをやっていくと発表しています。今後の展開がどうなるか楽しみです。

シバタ:次は日本企業の例も見てみましょう。「無印良品」を展開する良品計画が、ホテルを展開しているという話題です。吉川さんは北京にある「MUJI HOTEL BEIJING」に泊まったことがあるそうですが、どうでしたか?

吉川:よかったです。宿泊費も1泊1万5,000円〜2万円くらいで、北京の中ではそれほど高くないですし。

日本にMUJI HOTELがないので(※日本では2019年に東京・銀座でオープン予定)、「なぜ小売の話でホテルが出てくるの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、もともと良品計画は上海にカフェを作り、それから深センや北京にホテルを作っているんですね。だから、小売業で知った中国のマーケット動向を、ホテルのような接客業にも応用しているわけです。

そうやって建てたMUJI HOTELのコンセプトは「アンチゴージャス・アンチチープ」。高級過ぎず、安物っぽくないという意味で、これが中国の人たちにウケているそうです。

(MUJI HOTEL BEIJINGの様子:撮影吉川氏)


購買体験の新パターンは無限!? 試行錯誤を重ねる新興勢力

ここからは、中国における小売の最先端事例を紹介していきます。

この分野を分類すると、大きく【店頭体験・店舗】向け、【オンラインマーケットプレイス】、【D2C】の3つに分けられます。今回は、この中で【店頭体験・店舗】と【オンラインマーケットプレイス】の2ジャンルについて、我々が注目する企業やサービスをピックアップしてみました。


店頭体験・店舗:無人コンビニ

先ほどAuchanを紹介しましたが、最近は本当にたくさんの無人コンビニ(無人店舗)が登場しています。例えば、フルーツのネット通販を手掛けるEC企業ZhongshanBingoBox technology Co.(チュウザン・ビンゴボックス・テクノロジー/中山市賓哥網絡科技)は、無人店舗「BingoBox」をオープンして2018年1月に追加で$80Million(約80億円)の資金調達に成功しています。今後は国内で5,000店を開店する予定だそうです。

決済方式は大きく4つあって、一つはセルフレジ形式の無人コンビニです。Alibaba出身の創業者が2017年に始めた猩便利(ゴリラコンビニ)などが有名で、商品のQRコードを専用アプリでスキャンするだけで買い物ができます。レジに並んで待つ時間がないので、出勤前やランチタイムはとても便利です。

(ゴリラコンビニのアプリ画面と、商品に付いているQRコード:撮影滝沢氏)

2つ目はRFIDタグ方式で、商品に貼ってあるRFIDのシールを、店舗の出口にある専用の機器が読み取って決済するやり方です。イメージとしては、商品を持って駅の自動改札を通ると勝手に決済されるような感じですね。事前に顔も登録してあるので、顔情報と会計データが紐づいてモバイル決済され、大手家電量販店Suningなどが試験的に導入しています。

3つ目は顔認証+画像認証+重量認証方式で、Amazon Goに近いやり方です。入店時に顔認証されて、商品を取るとカメラが検知するという形で、加えて正確性を高めるために棚から商品を取った時に重量認証されます。jian24(ジエン24/简24)という無人コンビニがこの方式を採用していて、手ぶらで入って商品を持って出るだけで決済が完了するものの、突然の閉店や故障が多くてまだまだスケールする段階ではないような感じでした。

最後の4つ目は手のひら認証です。深センにあるスタートアップがAlibabaと提携して出店したTake Go(テイクゴー)という自動販売機は、手のひらを登録した上で、手のひら認証+電話番号の下四桁を入力すると商品が入っている棚のドアのロックが解除されます。一見先進的なようですが、棚の中にあるのは一般的な自販機と変わらない品ぞろえで、「手間の多い自販機」というような感じでした。利便性や購買体験向上を見据えてサービス開発をしている段階というより、まずは手のひら認証技術を試そうとしているのかなという印象です。

それでもまず店舗を出して、実験と失敗を繰り返しながら進化させようとするところが中国らしい点です(滝沢氏)。


店頭体験・店舗:Hema Xiansheng(フーマー・シェンシェン/盒马鲜生)

2016年3月、シリーズAラウンドでAlibabaから$150 Million(約150億円)の出資を受けたスーパーマーケットで、Alibabaのニューリテール戦略を体現したような最新型の店舗となっています。

オンラインで注文された商品を置いておく物流倉庫や、普段アプリから買う人が新しい商品と出合うためのショールームなど、既存のスーパーにはなかったような設備や仕掛けがたくさんあります。食材の良さも売りで、海鮮物をその場ですくってその場で調理してくれるレストランも併設されています。まさに新しい購買体験を提供している好例です(滝沢氏)。


店頭体験・店舗:Dicos(ディコス/徳克士)未来店

中国で有名なファストフードチェーンが、試験的に始めた無人レストランです。お客さんは机の上に貼ってあるQRコードを読み取ってWeChat経由で注文し、そのままWeChatPayで決済して商品を買うことができます。

ここまでは普通のモバイル決済と大差ないのですが、ユニークなのは商品の受け取り方。商品を買うと暗証番号が発行され、お店に備え付けてあるロッカーのようなボックスに番号を打ち込むと商品を受け取れるんです。この一風変わった購買体験がウケて売上が上がっただけでなく、店舗の人件費もだいぶ削減できたというニュースが出ていました(滝沢氏)。

(Dicos未来店に備え付けてある商品受け取り用ロッカー)


オンラインマーケットプレイス:Meituan(メイトアン/美団)

同社はライフスタイルにかかわるさまざまなサービスを提供している会社で、例えば大衆点評(ダージョンディエンピン)という日本の食べログのような口コミサイトを運営しています。他にも、レストラン予約やフードデリバリーサービス、旅行サービスや配車サービスなど多面的に展開しており、2018年4月にはシェアサイクルサービスを展開するMobike(モバイク)を$2.7 Billion(約2,700億円)で買収しました。

各分野に競合がおり、例えばフードデリバリーのMeituan Waimai(メイトワン・ワイマイ)はAlibaba傘下のEle.me(エルミー)とシェアを取り合っている状況です。ただ、個人的にはMeituanのアプリUIがとても使いやすいと感じています(滝沢氏)。


オンラインマーケットプレイス:yizhibo(イージーボー/一直播)

これは2016年5月にサービスを開始したライブコマースのアプリで、毎日およそ1,000万人のユーザーが視聴、生放送1回の視聴者は最大450万人を達成しているそうです。

立ち上げの翌月から約300人の有名人が生放送を開始し、知名度を高めています。ライブをAlibaba傘下のTaobaoなどECに直結させ、ライブコマースから商品購買をつなげる仕組みづくりを推進しています(滝沢氏)。


結局「ニューリテール」の未来はどこに行くのか?

講座の最後は、今回何度も出てきた「ニューリテール」戦略の未来について、3人の私見を交えて議論しました。

シバタ:例えばAlibabaが進めるニューリテール戦略は、今後どう展開していくと予想していますか?

吉川:難しい質問ですね。今のところ、これまでECで培ってきた販売〜決済〜デリバリーの技術と知見をリアルに応用し始めたばかりなので。まずはどのジャンルから押さえていくかが今後の注目です。

滝沢:私の理解では、ニューリテールというのはデータを活用してオンラインとオフラインを融合させていこう、それでユーザー体験をよくしていこうという戦略です。

今までは、O2O(オンライン・トゥー・オフライン)のような概念に代表されるように、オンラインとオフラインを「どうつなぐか」という考え方で戦略が立てられることが多かったように思います。

しかし、オンラインもオフラインも結局は「顧客接点」の一つでしかありません。それぞれを分けて「どうつなぐか」を考えるのではなく、オンラインとオフラインを一体のものとして捉え、心地よい購買体験をどれだけ作っていけるかが成否を分けるんじゃないかと思います。

シバタ:ECビジネスで最も大変なのは、購買頻度を上げること。例えば、楽天市場やAmazonの購買頻度を見ると、普通の会員は月平均1回程度なんですね。年平均にすると12回しか使われていないのです。

どんなサービスでも利用頻度は高ければ高いほうが良いので、小売に進出したい、それも食料品など毎日のように買うものを押さえたいという考えはすごくよく分かります。ライフタイムバリューを上げるためにも、ニューリテール戦略は欠かせない次の一手なのだと思います。

吉川:リアルな購買データを今以上に収集できれば、その時々の売れ筋商品も分かるようになるので、いずれはAlibabaが自社ブランドを作って販売するようにもなるでしょうね。

シバタ:そのパターンは、Amazonが典型的ですね。まずサードパーティーの店舗に商品を売ってもらい、売れ筋が分かってきたら自分たちで仕入れて安く売り、さらに自分たちでも作れると思ったら自社のプライベートブランドを立ち上げたりもします。

吉川:Alibabaがそこまでドラスティックにやるかは分かりませんが、EC企業がメーカーと組んで自社製品を作っていく流れは確実に出てくると思います。データを持っているほうが強いという好例ですね。

滝沢:中国の場合、データを集める前に壊れてしまうパターンもよくありますが(笑)。

吉川:そうそう。中国の会社は意思決定が速いから、ダメならすぐ撤退しますよね。逆に「動いたらすごいよ」という側面もあるので、大きな投資が得られたらすぐチャレンジする。そういう意味で、中国は楽しいですよ。

小売の世界は“巨人”が多いので、成功するまでに時間的・金銭的に非常に大きな投資が必要です。だから、今勃興しているニューリテールのプレーヤーがどうやって巨人たちの間をかいくぐって成長していくのか。無人コンビニなんかは、決済だけでなく人工知能や行動追跡技術の進化も必要になる分野ですから、それらの進化と合わせて長い目で動向を見ていくのが大事になるでしょう。

シバタ:今回もありがとうございました。


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