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多角化する弁護士ドットコムにみる2つの「ネットワーク効果」

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今日の記事では、弁護士ドットコムの決算から様々な形の「ネットワーク効果」を学んでみたいと思います。

弁護士ドットコム 2018年3月期 決算説明資料

はじめに、売上と営業利益を簡単におさらいしておきましょう。

2018年3月期の1年間で売上はYoY+40%の23億円、営業利益はYoY+23.6%の約5億円という結果になっています。

上場して2年経っていますが未だに高い成長率を誇っており、営業利益率も20%を超えていて順調なペースで成長していると言えるでしょう。

貸借対照表によると現金が12.6億円あり、固定負債はゼロ、自己資本比率が81.5%と極めて健全な貸借対照表だと言えるでしょう。

これだけを見ると、過剰な先行投資や無理な資金調達など貸借対照表で大きなギャンブルをすることなく、着実に事業を成長させてきていることがよくご理解いただけると思います。

今日はそんな弁護士ドットコムの決算資料から2種類のネットワーク効果と、それぞれの違いについて詳しく見てみたいと思います。


弁護士ドットコムにおける「ネットワーク効果」

はじめに本業である「弁護士ドットコム事業」を見ていきます。

はじめに弁護士業界全体のトレンドとして、弁護士の数が2000年から2018年にかけて約2倍の4万人に増えているという大きな流れがあります。

このスライドにあるように弁護士急増の理由はいくつかありますが、大きな要因は裁判員制度の導入を見据え2002年に閣議決定された「法曹3000人計画」(=年間の司法試験合格者数を3,000人に増やすという計画)によるものと言われています。しかしこの国の施策は結果的に弁護士の質の低下、弁護士の人数が多すぎるための就職難、大学の法学部や法科大学院の定員割れを招いたことから、国は2013年に計画そのものの見直しが決定されています。

弁護士報酬全体を見てみると2000年から2014年にかけて増えており、2014年時点では弁護士一人当たりの平均報酬額が約2,400万円という計算になっています。

こういった弁護士市場の中で弁護士ドットコムは15,000人を超える弁護士が会員登録をしています。これは実に日本の全弁護士の1/3を超えるマーケットシェアになっています。

登録弁護士のうち3,825人が有料会員の登録をしています。つまり日本の全弁護士の約10%が弁護士ドットコムの有料会員になっているということになります。

弁護士ドットコムのビジネスモデルは、法律相談をしたいユーザーと顧客を獲得したい弁護士をマッチさせるマーケットプレイス型のビジネスモデルです。

この図にあるように、弁護士ドットコムのネットワーク効果というのは弁護士とユーザーの二つの層をつなぐことで成り立つ仕組みになっています。

インターネットという手軽な手段を提供することで、今までわざわざ弁護士に相談するほどでもないと考えていたユーザーを開拓できていると考えられます。そのような新規ユーザー獲得のためにより多くの弁護士が登録して法律相談に回答することで、弁護士ドットコム上の法律相談データベースにより多くの情報が蓄積されるようになります。データベースが大きくなればなるほど、より多くのユーザーにとって魅力的になり、ユーザーが増えます。ユーザーが増えれば増えるほど、さらに多くの弁護士にとって魅力的なプラットフォームになるという具合の好循環を生み出しています。

このようにプラスのループが回りだすと、プラットフォームとしての魅力がどんどん大きくなる正の循環が働くことになります。

実際に数字で見てみると、左のグラフにある通り法律相談件数は右肩上がりで増えてますし、それに伴いユーザー側の有料会員数も右肩上がりで増えている、という具合にしっかりとした2層の間でのネットワーク効果が働いていることがご理解いただけると思います。


クラウドサインにおける「ネットワーク効果」

弁護士ドットコムが会社として現在最も注力して投資をしている、「クラウドサイン」の事業も見ていきましょう。

クラウドサインとは、契約書のやり取りをクラウド上で電子的に行うためのプラットフォームです。このスライドにある通りフリーミアムモデルで展開されています。

先日アメリカでも「DocuSign」というまさに同じようなサービスを提供している会社が上場しました。これから「紙で契約書を交わすことがどんどん減っていき、徐々にクラウド上での電子的な署名に置き換わっていく」というトレンドが続いていることに関しては疑いの余地はないと言えるでしょう。

クラウドサイン事業の導入企業数・契約締結件数が共に右肩上がりで伸びているだけではなく、伸び方のカーブが指数関数的に上がっていることがご覧いただけると思います。

今年度の成長イメージのグラフを見ると、この右肩上がりのグラフがさらに角度が上がっていく形で計画されていることもよくわかります。

クラウドサインのネットワーク効果というのは「法務部同士」での一層のネットワーク効果です。

ある会社Xがクラウドサインを使い始めると、Xの取引先Yに送付される契約書は当然クラウドサインを経由して送られることになります。

そうなると取引先Yはわざわざ契約書を紙に印刷して捺印するのではなく、クラウドサイン上の電子署名を使い始める。という具合にどんどんユーザーが芋づる式に増えていく仕組みになっています。

つまり「クラウドサインを利用して契約書を送る」という行為そのものが自然な形での新規顧客獲得につながっている形になります。

このように既存顧客が新規顧客をどんどん獲得してくれるモデルになっているため、クラウドサインの今後の開発計画としてはPayPal創業者のピーター・ティールが言うところの「縦に独占せよ」というポリシーに従っているように見えます。

*ピーター・ティールのインタビュー:「タテだ。タテに独占しろ」 Paypal創業者ピーター・ティールが語る、10年後も勝てるビジネスのつくりかた

このスライドにある通り、既存の契約書をスキャンする・保管する・検索するといった機能を追加していくことで、法務部の契約書キャビネットそのものを全て預かっていくような形での市場拡大を狙っているのがよくご理解いただけると思います。


まとめ

簡単に弁護士ドットコムにおける2種類のネットワーク効果を整理すると以下のようになります。

弁護士ドットコムにおける「ネットワーク効果」
 「弁護士」と「ユーザー」の2層におけるネットワーク効果
  より多くの弁護士が登録して回答する
  => より多くのユーザーにとって魅力的な法律相談データベース
  => 更に多くの弁護士にとって魅力的なプラットフォームになる
クラウドサインにおける「ネットワーク効果」
 「法務部同士」の1層におけるネットワーク効果
  クラウドサインを利用して「契約書を送る」という行為そのものが新規顧客獲得につながる

通常ネットワーク効果を働かせるビジネスを作るのはそんなに簡単ではないわけですが、一つの会社の中で異なる二つのネットワーク効果をこのように上手に作り上げている弁護士ドットコムのビジネスモデルは非常に美しいモデルだと言えるのではないでしょうか。

今後も弁護士ドットコムのネットワーク効果がどのように効いてくるのかを注目していきたいと思います。


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