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Uber投資家からの警告「バブルからの更生への道のり」(2) 起業家・投資家・従業員が今すべきこと

Uberに最初に投資したVCであるBill Gurleyからの警告文「On the Road to Recap(バブルからの更生への道のり)」の翻訳(3部作のうちの第2部)です。予告編第1部をご覧になっていない方はまず先にそちらをご覧ください。

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起業家 / 創業者 / CEO

昨今のユニコーン起業家は今までとは全く異なった環境で教育されている。歴史的観点から見ると、資金は調達しやすくなり、市場は利益よりも成長を求め、競争は資本へのアクセスとなっている。これにより「できるだけ大きな資金を短期間で調達し、大きな野心を持ち、できる限りのマーケットシェアを獲得する」という考え方が広まった。

ベンチャーキャピタルの歴史上、アーリーステージのスタートアップは今まで多額の資本へアクセスする手段を持っていなかった。1999年代において、もし上場前に$30M(約30億円)の資金調達ができれば、それは歴史上類を見ない巨額の資金調達と考えられていた。しかし現代の未公開企業はおよそその10倍以上にもなる金額を調達している。これにより、バーンレートは当時に比べ10倍以上大きくなり、これら全ての要因が飽くことを知らない飢えたユニコーンを産みだす結果となった。

現代の起業家達は、今後おそらく人生で初めて、クリーンな(良い)条件での現状維持、もしくは評価額の増加を伴うファイナンスができなくなるという問題に直面するであろう。ここからは前例のない領域となる。

1. こういった状況に陥った現代のユニコーンがとることのできる一つの選択肢は、この投資家からの「悪徳な」タームシートを利用することである。上記で述べたように、これらのタームは経験の少ない人たちを簡単に騙すことができる。何故なら起業家達は、真の企業価値を覆い隠して、評価額を上げるためであれば、相手の要求を大抵飲んでしまうからだ。これの悪徳な条件を受け入れても、来たる殺戮がすぐに実現する訳ではない。時間の猶予を鑑みた上で、せめてできるだけ長い時間、見栄えを維持するためこのディールに応じるというのがたった一つの理由である。同時に、投資家側の悪徳な条件を受け入れるということは、自ら時限爆弾のスイッチを入れることを意味し、これを切り抜けるためには爆発前にできるだけ早くIPOを行うしかない。(注 : BoxやSquareはIPOによってかろうじでこの危機をくぐり抜けた。)さもなければ、これらの投資条件自身が会社を蝕んでいく。これらの条件をあえて受け入れるという点での一番大きな問題は、二度と未公開での資金調達ができなくなるということだ。他のどの投資家も、このようなリスキーなラウンドに加わりたいとは思わない。あらゆる門戸が閉ざされた上で唯一残された交渉の余地は、自分より有利な立場にある投資家から更に悪い条件で資金調達をすることになってしまう。

2. 評価額を下げクリーンなラウンドでの資金調達を行う。一見これは起業家達にとって大きな挫折ともとれるが、この考え方はすぐにでも改めるべきだ。NetflixのReed Hastingsは公開企業のCEOとして大規模な評価額の切り下げを伴う資金調達を行った。どの公開企業のCEOもいずれは株価の下落という問題に直面する。これは当たり前のことであり、皆その事実を受け入れている。この事実を受け入れたくない理由があるとすれば、それは長期的な視点で物事を考えるに当たって全く必要のないイマジネーションとエゴである。それよりかは、長期的な目線でのあなたの所有株式の価値を考え、全てを失うというリスクを最小限にすべきだ。真に恐ろしい悪徳な条件に比べれば、評価額の切り下げは取るに足らない。受け入れ、前に進むしかない。#1の選択に比べれば#2の方がはるかにマシである。

3. 腹を括り、今手元にあるキャッシュからどんな手段を行使してでも、ポジティブキャッシュフローを産む。この選択肢は中でも一番意外なものであったかもしれない。というのも、過去4年に渡って取締役達があなたに指示してきたことと正反対の行動をとることになるからである。今までは「大胆かつ野心的にどんな赤字を垂れ流してでもマーケットシェアの獲得に注力する」という考えの基、経営を行ってきた。しかし、自分自身の運命を完全にコントロールするためには、今後の追加の資金調達の必要性を消してしまうしかない。「利益を生み出せるようになること」がスタートアップを自由にさせる最も合理的な方法である。そこから自分の思うように意思決定を行えば良い。資金調達の必要性を消すことは、将来の株式の希薄化も最小限に留めることができる。かの有名なFidelityのポートフォリオマネージャーであるGavin Bakerはユニコーン企業のCEO達へこうメッセージを残している。 「まず$1のフリーキャッシュフローを生み出しなさい。後の残りの全ては事業の成長のために投資すれば良い。そしてこの$1のフリーキャッシュフローを今後も維持しなさい。」あなたが成長したくてしたくてたまらないのは良く分かる。 しかし外部からの株式の希薄化を伴う資金調達よりも、事業による売上総利益から資金を調達することをできるだけお勧めする。 最終的に資本市場の言いなりになるより、自らの事業利益から資金を確保していくことこそが会社のコントロールを手にしていく唯一の方法である。

4. 上場する。長期的な視点における最良の方法は、IPOによって創業者をはじめその従業員の所有権を自分達で管理することだ。上場するまでの間、普通株式は優先株式に劣る。大抵の優先株式はそれぞれ種類によって異なる機能を持ち合わせており、ほとんどのものが普通株式を上回る優先権を有している。もしあなた、もしくはあなたの従業員の株式を手放したければ(現金化したければ)、優先株式を普通株式に変換し、議決権と優先的分配権の両方を取り除くべきである。多くの創業者達は「IPOを行うのことは悪いことで、成功の秘訣は未公開のままどれだけ長くいられるか」と言った間違ったアドバイスを受ける。IPOは会社にとって良い影響を及ぼすだけでなく、(例 : Mark ZuckerbergやMarc Benioffのケース)あなたやあなたの従業員の長期的な株式価値を保証するという点で最良の方法なのである。


株価が上下すること自体に意味はない。現代の名高い上場企業の中で、株価の下落を経験したことのない企業は存在しない。Amazonは$106から$6へ。Salesforceに関して言えば、一時株価は$16から$6へ落ち込み、更にその後$10を切る期間が何ヶ月も続いた。Netflixはわずか6ヶ月の間に$38から$8への下落。facebook社については、上場して最初の6ヶ月がどんな様子だったかあなたは覚えているだろうか。

もしあなたが評価額の下落に耐えられないというのであれば、CEOという地位を明け渡した方が良い。良いリーダーというのは良い時も悪い時も会社を導く人のことである。汚い契約を結ぶということは会社の将来を危険に晒すということであり、ただあなたが困難なニュースと向かい合いたくないという心の表れでもある。


従業員

会社の詳細な資本構成に関する情報は大抵の場合、従業員には伏せられている。自分がユニコーン企業で働いており、いくらかの株式を持っているということは知っている、もしくはあなたが実際に何パーセント所有しているか知っているというケースもあるだろう。しかし残念なことにあなたはユニコーン企業としての企業価値に自分の所有株式の持分比率をかけ、その価値が自分に値すると思い込んでしまう。もちろん間違ってはいないが、その価値を手にするには、株式の希薄化を伴う評価額の減損なしに、M&AやIPOといった流動性を伴うイベントまで辿りつかなければならない。考えてみてほしい。M&Aのチャンスは乏しく( どの大企業も巨額の資金を支払いたいとは思わないと同時に、過激なバーンレートを有する会社をわざわざ吸収したくはない。) 、そしてIPOは悪い選択肢だとアドバイスされる。とすれば一体どのようにして流動性が確保される(=現金化できる)のか?

上記で述べた1-4の選択の意思決定に加わることができないという点以外で、従業員と創業者の置かれている状況にほとんど変わりはない。これを踏まえた上で、従業員も経営陣と同じ質問を投げかけなければならない : 私達が今持っている資金で、損益分岐点までたどり着くことができるのか?私達は新たに資金調達をしなければならないのか?もしそうなら私達はクリーンな条件で契約を受け入れることができるのか?従業員は創業者やCEOが過去に悪徳な契約を受け入れたことがあるのかどうかを知りたいと思わなければならない。なぜなら無関心というのが一番のリスクだからである。同時にあなたのCEOがIPOに対して賛成派なのか反対派なのかも把握しておくべきである。もし、あなたの創業者ないしCEOが悪徳なタームを受け入れ、かつIPOにも反対なのであれば、あなたの所有している株式の流動性が獲得される可能性は極めて低いと言える。他の会社に転職することをお勧めする。


投資家

開示 : 本記事の著者及び著者の会社はこのカテゴリーに属することをここに記しておく。

ユニコーン企業の初期の投資家は大抵の場合、創業者や従業員と同じ立場にある。何故ならほとんどのユニコーン企業は幾度にもわたる資金調達を行い、その初期の投資家の持分は希薄化され、まとまった議決権や優先的分配権を有していない。その結果、初期投資家の目的も創業者と同じリターンと流動性の確保に集約され、重要な意思決定もまた創業者と同じものになる。そして彼らもまた会社のコントロールを一掃しうる悪徳なタームシートへの警戒心が強い。投資家達自身も、流動性が欠落している中での(株式の売却機会が乏しい) 書面上の仮初めのリターンとキャッシュ対キャッシュでの実質のリターンとの差に不安を覚え始めている。

しかしここでの例外に当たるのは、全ての資金調達額の大部分をとり持つレイターステージの投資家もしくは大口の投資家である。これらの投資家達はプロラタ条項によって自分達の持ち株比率を維持している。彼らは、投資資金を大量に有しているため、素早く動くことで勝つ、というメンタリティーで投資をしてきた。ポーカーで言えば「ルーズアグレッシブ(注: ゲーム参加率は高く、ベットは積極的なプレースタイルのこと)」スタイルでゲームに参加している。

しかしこのクラスの投資家達の勢いを二つの圧力が抑え始めている。 一つは失敗例が目に付き始めたという事実。これらの投資家達は巨額の評価額の切り下げにより、多額の損失を被っている。この高額な損失計上は投資家達だけでなくLP側の自信をも削ぐ結果となっている。二つ目は、ファンド全体の総額に対して1社あたりの比率が大きくなりすぎてしまうことである。つまり彼らはこれ以上のリスクを負うことができなくなってしまう。投資額が1社に偏りすぎてしまっているこの状況を彼らは「投資可能金額の上限に達した (fully allocated, at capacity)」という柔らかな言い回しを使って表現している。

この種の投資家達が資金を出し渋りはじめたため、ユニコーン企業は世界に前例を見ない悲惨な状況になりつつある。すでに巨額の資本で武装した名だたる投資家達は最終的に銀行に指示し、自分達の名のもと資本形成に参加するよう他の有産投資家をも勧誘し始めた。飢えたユニコーンは一部の投資家達の資本だけでは満たされなくなってしまったのだ。皮肉にも、このクラスの投資家による歴史的な成功例を見ても、 他の有産投資家達を巻き込んだ例はない。しかし今となっては他の投資家達をも巻き込まざるをえない状況になっており、全ての人がリスクを負う結果となっている。

投資家達は出資先の次の資金調達ラウンドについての心配もしなければならない。あなたはファンドに出資してくれているLP達を仮初めの(書面上での)成功で安心させるために、悪徳な契約条件をオファーしようとしているのか?自分がしていることが会社の長期的な経営に悪影響を及ぼすと知っていてのことなのか?あなたは評価額が下がり、自分のIRRが低下するよりも早く追加資本を調達しなければと思うのか?あなたがすでに十分な資金を投じたはずの相手企業に、ただ彼らが飢えているからと言ってさらなる資金を投じなければと思うのか?


LPs: VCファンドに投資する「投資家の投資家」

VCやヘッジファンドに出資するLPファンドも資本市場における大きな資金源である。彼らはエコシステムを機能させる本物の資本の持ち主だ。LPはエコシステムにおけるそれぞれの投資家のパフォーマンスを評価し、彼らに次の出資をするか否かを決める。これは非常に難しい仕事と言える。何故なら、スタートアップ (やユニコーン) といった非流動資産への投資はフィードバックサイクルが非常に長いからである。

LPにとってのもう一つの大きな課題は、出資先の運用実績の報告が求められる中、非流動資産への投資実績というのは非常に測りづらく、将来のキャッシュリターンを予測する上で必ずしも有用な指標が得られないという点である。こういったケースにおいてLPは急増するユニコーンの評価額を基に高い実績を報告している。ある意味で彼らはすでに投資回収を「(書面上は)計上」していると言えるが、真に問題なのはもちろんのこと、資本市場における流動性の欠落である。これに伴い、書面上は回収できているはずの利得が実際のキャッシュになって返ってこないというリスクが増大している。

更に、上記でも述べたように、LPは不安が高まるこの市場環境においても尚、資金調達プロセスを加速させたいVC側からの更なる勧誘を受けている。先日のWSJに掲載された記事、“Venture-Capital Firms Draw a Rush of New Money,” は、過去7年間におけるキャッシュの流動性は依然低いレベルを維持しているにも関わらず、VC達がこの15年間で最も多額の出資をLPから受けていることを強調している。この記事に綴られた幾つかの文章を改めてここに引用しておく。

1. 近年VCは巨額の資金を投じ、企業に積極的に資金を使って市場優位性を確立するよう促した。これがVCの手元にわずかな資金のみを残す状態を作り出し、資金不足から通年より早い新たな資金調達が求められる結果となっている。

2. 一部のベンチャーキャピタリストは書面上の利得が魅力的に見えるよう確かめた上で、時間を見計らって資金調達を行っていると述べている。

3. 最終的には現金の分配がいくらになるかという点が重要になってくるが、書面上の巨額なキャピタル・ゲインが、次の資金調達を得る上での重要な要素になっている。


これらの問題に加えて、”Inside rounds”の増加が顕著となった。”Inside rounds”は、既に投資済であるスタートアップに追加投資を行い、投資先の評価額が適正に評価される(多くの場合は評価額の下落をもたらす)ことをを防ぐために行われる。これはもちろん、利益相反に当てはまる行為であり、LP達の立場からVCの真の業績を評価することをより一層難しくしている。

ファンドの運用実績が定かにならず、LPの不安が頂点に達している頃、この状況に相反して、たくさんの投資ファンドはLPに次の新たなファンドに資金を注ぎ込むよう勧誘している。心の奥底ではLP達VCセクターにおける投資と投資回収の周期が合致していないことは把握している。もし一つの産業に資金が投入され過ぎると、リターン全体の総額が低くなる。何十億ドルにも膨れ上がったVCファンドに、多額の小切手を切ることは今ある問題を更に悪化させることになる。

VC側の一方的な要求に対して、LPコミュニティ側の対応としては、Inside-led roundsとcross-fund investing (身内で仕組んだラウンド及びVCによる複数のファンドを通じた出資) の禁止が挙げられる。これにより、新しい資本が前述の「評価額の引下げを防ぐための資金調達」に使われることを防ぐことができる。

もしこれでも不十分な場合、一部のLPは、自らが出資したVCからSPV (Special Purpose Vehicles) への参加を頻繁に勧められる。先程もお伝えしたように、ある投資家は一つの会社へ資金を投じすぎたばかりに、新たな投資への制限を受ける。にも関わらず、彼らは出資先のユニコーンへ資金を与え続け、利益より成長を優先するという姿勢を支援している。このため、欲深き者達が更なる資本を求める中、彼らは一度きりの特別目的事業体 (SPV) を設ける。そしてこのSPVには、リスク軽減のための投資先ポートフォリオの分散化もなければ、ルックバックオプションもない。

言うまでもなくLP側はこのSPV参加への勧誘を断れば良い (無論、ファンド側からの圧力はあるだろうが) 。 これは無難な選択と言える。何故ならまず市場がすでに資金で溢れているにも関わらず誰かが「このままでは溺れてしまいそうなんだ。私達を助けくれ」とあなたにチェックを書く(=追加投資を行なう)よう頼んでくる。次にあなたは過去に同じ会社にすでに出資をしており十分なリスクを負っている。最後に歴史的観点から見てもSPVに参加して良いリターンを得られたという前例はあまりないのだ。


(第2部ここまで。第3部に続く。)

Uber投資家からの警告「バブルからの更生への道のり」を翻訳します
「バブルからの更生への道のり」(1) なぜバブルが起こっているのか
・「バブルからの更生への道のり」(2) 起業家・投資家・従業員が今すべきこと
「バブルからの更生への道のり」(3) 問題をより大きくしないために

※今回の翻訳は、私が監修の下で、ワシントン州米国公認会計士 玉井和佐さんに翻訳にご協力いただいています。

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