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Uber投資家からの警告「バブルからの更生への道のり」(1) なぜバブルが起こっているのか

Uberに最初に投資したVCであるBill Gurleyからの警告文「On the Road to Recap(バブルからの更生への道のり)」の翻訳(3部作のうちの1回目)です。予告編をご覧になっていない方はまず先にそちらをご覧ください。

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On the Road to Recap:
バブルからの更生への道のり

何故今ユニコーン企業の資本市場が危ういのか 関係する全ての人へ

2015年2月、フォーチュン誌の記者であるErin Griffith及び Dan Primackらによる"The Age of Unicorns" の発表によると「2015年度ベンチャーキャピタリスト達によって$1 billion以上の評価額を受けたスタートアップの数はおよそ80社」とあった。それが2016年1月時点においてはすでに229社にまで膨らんでいる。この急激な増加の要因の一つは大型資金調達プロセスのおおいなる簡易化にある : 前回のステージよりはるかに高い評価額を選びプレゼンテーションの資料にまとめ、投資家にオファーをする。そして数億ドルものキャッシュが銀行口座に流れ込むのを眺める。12〜18か月後、時が来たらまた同じことを繰り返す。とてもシンプルである。

訳者注: 「$1 billion以上の評価額を受けたスタートアップ」のことを「ユニコーン」と呼びます。以下、「ユニコーン」とだけ記載しますが、ユニコーンとは「$1 billion以上の評価額を受けたスタートアップ」のことです。

表向きは明らかでないが、水面下の投資コミュニティではユニコーン企業に対する追加の増資をよりいっそう危険で複雑なものにする大きな変化があった。ユニコーンへの参加者 - ( 創業者、従業員、投資家、有限責任パートナー (LPs) 等 ) は彼らの大金がユニコーンとしての本質的な性質のために危険にさらされているのを目の当たりにしている。高額な評価額からのしかかるプレッシャーや過激なバーンレート ( そして後の更なる資金ニーズ) 、前例のない低いレベルでのIPOやM&Aは、独自の複雑な状況を作り出し、たくさんのユニコーン投資家や経営者を苦しめている。

今まで失敗していったユニコーンが産んだ損失の総額は、他の全てのユニコーンによって産み出された株主価値の総額によって十二分にもみ消されると多くの人が考えた。これは、AirBnB, Slack, Snapchat, Uber, と言った世代が莫大な価値を生み出し、多くの人たちの目に、成功が印象づけられたからである。もちろんユニコーン個々の成功例を見ると楽観的な印象を受ける一方、全てのユニコーンを総合した全体像を示す指標は公開されていない。エコシステムの中にいるほとんどの当事者はそれぞれ個々の会社の業績「のみ」に責任を持ち詳細な情報を持っている。だからこそ、(個々の会社の視点ではなく)エコシステム全体を俯瞰して、どのような変化が起こっているのかを理解することが重要なのだ。

恐らく、バブル崩壊の先駆けとなりうる出来事はWall Street Journalに掲載されたJohn Carreyrouによる10月16日のTheranos社に関する調査分析である。Johnは、たとえ投資家から巨額の資金調達ができたからと言って、以下のことが保証される訳ではないということを立証した第一人者であった。
  (i) 会社が上手くいっているということ 
  (ii) 直近の株式の評価額が永久に変わらないということ

John Carreyrouはシリコンバレーを拠点とするレポーターではなかった。しかし皮肉にも、ユニコーンフィーバーに夢中になっていた他の現地ジャーナリスト達へ、目覚まし役として、警鐘を鳴らしたのは彼であった。次に世間を驚かせたのが、Rolfe Winklerによる記事 “Highly Valued Startup Zenefits Runs Into Turbulence"である。私達は今後、さらにこういった出来事が増えると予測すべきである。

2015年後半、たくさんのテクノロジー関連上場企業の間で、巨額の減損による株価の下落が相継いだ。好業績、急成長株と称され、一時は売上の10倍以上の評価額を得た会社の価値が突如売上の4~7倍に切り下がったのだ。他の多くのインターネット関連企業株式にも同じことが起こった。これらの広範囲に及ぶ株価暴落は、投資家たちの投資対象をより成熟した未公開企業へシフトさせていった。

時を同じくして、ミューチュアルファンドも投資先企業の株式に大幅な減損処理を行っていた。ユニコーンの多くはミューチュアルファンドから資金調達を行っており、ミューチュアルファンドは、投資先の価値を日々その時点での適正な価格で評価し直すのが通例だ。ファンドマネージャーはこの収益率に応じて定期的に報酬を得るため、結果としてほとんどの会社が独立した時価評価のための内部グループを持つようになっていた。公開企業の動向に合わせて、これらのグループはユニコーンの評価を見直し、ユニコーンの評価額を下げた。幻想は崩れ去って行ったのだ。もう一度言うが、直近のステージの評価額は決して永久的なものではない。そして未公開だからと行って精密な調査から逃れられる訳ではない。

たくさんのスタートアップが巨額の評価を受け注目される最中、同時にたくさんのスタートアップの失敗も目にするようになった。Fab.com, Quirky, Homejoy, Secretと言った名だたるVCに出資を受け、一世を風靡したスタートアップも閉鎖に追い込まれている。実際のところこういった例は数え切れず、企業情報データベースであるCB Insightがリストを作り始めた。Mixpanel, Jawbone, Twitter, HotelTonightをはじめとするたくさんの企業が、費用を減らしバーンレートを抑えるため「従業員の解雇」という難しい選択を強いられた。

2016年度の第一四半期までに、レイターステージにおける資本市場にも大きな変化があった。投資家達が消極的かつ慎重になり、一斉にユニコーン企業への新しい投資を見送るようになった。更に、一度高く飛び立ったスタートアップが資金調達に苦しみ始めると、シリコンバレーで今まで長い間、成功の秘訣と謳われ信じられてきた「どんな犠牲を払ってでも、短期間で急成長を遂げる」と言う迷信が崩れはじめ、人々は資本コストが急激に上昇し、利益を産むことの価値が改めて見直される時代の到来を予測し始めた。不安がじわじわと全世界に広がり始めている。

これに伴い、ある重大な事実が、ベンチャーキャピタルの動向に注目するジャーナリスト達の目に止まり始めた。1999年、企業価値はIPOと株式の流動性と共に成り立っていたのに対し、2015年は正反対の結果となっていたのだ。2015年は未公開ユニコーンの価値が増える一方でIPOの数が劇的に減少しているのだ。仮に1999年頃のドットコムバブルは、多数のIPOが起こっていたために投資家が株式を売却することができたという点で「ウェット」なバブルといえるが、2015年のバブルは(株式売却の機会がないという点で)非常にドライだと言えるだろう。書面上では多くの企業が高い評価額を得て成功しているように見えるが、実際の投資に対するキャッシュのリターンという点で、成功したと言える企業はほとんどない。2016年の第一四半期に置いてVCの出資を受けたテクノロジー関連企業が上場した件数は「ゼロ」である。ユニコーン時代の幕開けを宣言してわずか一年足らずでフォーチュンマガジン誌はこの問題を”シリコンバレーが抱える5千800億ドルの問題” として注意換気している。

私達が新たな時代を歩むにあたって、エコシステムに関わる全てのプレイヤーは今の現状の変化を把握し、その変化がどのようにして私達に影響を及ぼしうるのかを詳細に理解すべきである。まずこれらを理解するにあたって幾つかの感情面でのバイアスに焦点を当てていくところから始める。


感情面でのバイアス

学者がマーケットについて述べる際、市場参加者が合理的な行動をとるという前提の元に成り立つという前提を置く。しかし、仮に、市場参加者が合理的な行動を取らなかった場合はどうなるのか。ユニコーン資金調達の現場では、感情的要因による認知と意思決定の歪みにより、市場参加者が非合理的な行動を当たり前のように取っている。

1. 創業者/CEO — 今のユニコーン企業の創業者やCEOの多くは資金調達における失敗や苦労を経験したことがない。成功体験のみがあるのだ。さらに、彼らは少しの小さな陰りや停滞(評価額の切り下げ等)が採用プロセスや従業員の維持に壊滅的な影響を及ぼすと思い込んでいる。彼ら自身のエゴも一つの要因である。評価額の切り下げが本当に企業の弱体化を意味するものなのか?成功体験のみを重ね自信に満ちる彼らにとって、このような転換を強いられることは、受け入れることのできない不安と恐怖になっている。

2. 投資家 — 2016年度の典型的なVC投資家達も感情面でのバイアスの対象となっている。彼らの多くは、(VCファンドの投資家である)LPに対して、書面上の仮想的なキャピタル・ゲインという「成功」を報告することで成り立っている。そして投資先の評価額の切り下げの兆しが見え隠れし始めると、まだ実現してもいない「成功」の価値に疑問を持ち始める。企業側による評価減計上の放棄は彼らの次のラウンドにおける資金調達を妨げることになる。すると不安を覚えた投資家は表向きの面目を保つための心理にかられ、何としても減損を防ぐためにあらゆる手段をとらなければという動機が生まれる。

3. 投資回収を織り込んでしまっている人々 — 創業者、重役、シードステージの投資家、レイターステージの投資家、VC 、あなたが誰であれ直近の評価額に自分の株式の所有率かけ、自分はその額に値すると自分に言い聞かせる。一度自分が所有している価値の大きさを認識してしまうと、評価額の切り下げはできるだけ認めたくないという心理が働く。

4. エグジットへの競争 — 多くの参加者が評価額の減損という恐怖に苛まれる中、エコシステムに参加するプレイヤーの一部は所有株式をできるだけ早く売却するためにその列を争い始めた。これは市場環境が変化する際に必ず起こることであり、それぞれの企業間における緊張が高まりつつある。すでに一部の創業者やマネージメントは投資家に先立ち、株式の流動性を確保しつつある。さらにこの状況を良しとしない投資家達が従業員や経営者を追放すると言ったケースも起こっている。市場参加者が合理的な行動をとっているが故の出来事であるというのは明らかであるが、この株式価値の下落という恐怖と長期化された株式の流動性は人々の焦りを駆り立て、一刻も早いエグジットを争う結果となっている。


元凶(The Sharks)は悪徳な(dirty)タームシートと共にやってくる

* Shark : 鮫とは、悪意を持って他人を食い物にする人、いかさま師を表す俗語

そもそも元凶は一体誰なのか?この災いの元と言えるのは、前述の歪んだバイアスをいち早く本能的に察知し、その状況を利用して利益を得ようと企てる洗練された投資家達である。ある一定の状況を待ち受け、その立場を利用して権利を行使する。

この「悪徳(“Dirty”)」もしくは仕組まれたタームシートというのは、その投資家達の経済的利得のほとんどが増加した時価総額からではなく、契約書面の奥深いところにあるいくつかの複雑な文言によってもたらされる。この複雑な契約条件によってエグジットがどれだけ低い価格であっても常に投資家が多額の利益を回収できる仕組みが作られる。

タームシートにおける危険な文言の代表例として 「IPOリターンの保証」、「ラチェット徐行」、「PIK配当」、「M&A拒否権」、「残余財産分配における優先権」と言ったものがよく挙げられるが、典型的なシリコンバレーのタームシートにこういった文言は出てこない。何故ならこれらの条件は、後々のステージにおいて資本構成を再調整することである程度のリスク回避が可能だからである。これが創業者やVCからの役員が「まだ問題はない」という誤認を産む一つの理由でもある。調整はまだこの時点で必要とされず、もっと後で行われる。

この悪徳なタームシートは二つの理由により深刻な問題であると言える。まず一つは、いずれ時がくれば「正体を表す」もしくは「爆発する」という点である。一度この悪徳なタームシートに合意をしてしまうと、ただ資本構成を眺め、自分の持分を算出するということができなくなってしまうのである。契約書の奥深くに隠れたタームによって、将来の時価総額における持分の算出に非常に複雑な計算が必要となる。結果として元凶である投資家にまず優先して利得が還元され、残りを他の起業家によって分け合う形となってしまう。

前回の資金調達時点で複雑で悪徳な条件での投資があった場合、新たに投資を検討する投資家は、その複雑さを嫌い、投資を見送る場合が少なくない。これにより資金不足や抜本的な資本の再構成のリスクが著しく高くなり、当初の株主 (創業者、従業員、他の投資家)が一掃されてしまうというケースも起こりうる。一見、短期的な感情面におけるバイアスや不安要素を満たし、無害にも見えるこういった契約が、会社全体を危険に晒しているということもある。

レイターステージの投資家達の一部も巧妙な文言をタームシートに組み込むことで自ら元凶となりかけている。この手口を成功させるには投資家として根底から「他人を食らう鮫」になりきる必要がある。創業者や従業員、他の投資家と言った利害関係者の利益に反する行動をしているという自覚を持ちつつも尚、彼らを裏切り、自らが勝者となるため資本契約を完遂できる人間でなければならない。

ここからは新しい資金調達環境がエコシステムの参加者にそれぞれどう影響を及ぼしていくかを掘り下げていく。


(第1部ここまで。第2部に続く。)

Uber投資家からの警告「バブルからの更生への道のり」を翻訳します
・「バブルからの更生への道のり」(1) なぜバブルが起こっているのか
「バブルからの更生への道のり」(2) 起業家・投資家・従業員が今すべきこと
「バブルからの更生への道のり」(3) 問題をより大きくしないために

※今回の翻訳は、私が監修の下で、ワシントン州米国公認会計士 玉井和佐さんに翻訳にご協力いただいています。

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